「マイクロ波による食材加熱の取り組み」について、日本電磁波エネルギー応用学会で研究発表を行いました!
Smart Appliances & Solutions事業本部
2025年1月24日(金)、第18回 日本電磁波エネルギー応用学会研究会にて、昨年の「SHARP Tech-Day’24 “Innovation Showcase”」に出展した「エリア別選択加熱技術」、「真空減圧による高品位乾燥」と今回初めてとなる「ハイブリッド解凍技術」について、SAS要素技術開発部 課長の加藤さんが代表して研究成果を発表しました。

■エリア別選択加熱技術
「エリア別選択加熱技術」は、庫内を4つのエリアに分割し、エリアごとに加熱具合をコントロールできる技術です。加熱したいものと加熱したくないもの(サラダなど)が混在しているお弁当のあたためなどの用途が想定されています。

現行のレンジは真空管の一種であるマグネトロンという装置でマイクロ波を発生しています。マグネトロンから発生したマイクロ波が物質内の水分子を振動させることで発熱する仕組みで、庫内の反射などを利用し、温める対象が均一な仕上がり温度になるように設計されています。ターンテーブルが回転するのも、仕上がりを均一化させるための工夫の1つです。
一方、「エリア別選択加熱技術」を用いたレンジでは、4つの半導体パワーアンプとアンテナを用いて庫内にマイクロ波を放射します。現行品とは真逆で、庫内の反射を極力抑え、それぞれのアンテナから放射されるマイクロ波を各ターゲットエリアに集中させることが必要となります。しかし、そのマイクロ波が他のエリアにも干渉してしまうという課題があります。

この課題に対し、①エリアごとのアンテナ間仕切りの設置・庫内反射の低減 ②天井高さの調整によるマイクロ波反射の抑制 ③マイクロ波を放射するアンテナの形状 ④加熱対象の物性変化(あたためられるものが温度変化することによって、マイクロ波の吸収率が変わる)、の4点に着目した検討を実施し、結果を発表しました。
①エリアごとのアンテナ間仕切りの設置・庫内反射の低減検討
エリア別に加熱するために重要なアンテナ間仕切りの効果や庫内反射の影響を電磁界シミュレーションで解析、他のエリアへの干渉は庫内反射の影響が大きく、電波吸収体を用いるなどで庫内反射を抑えることが出来れば、加熱エリアを理想的にコントロールできるという事がわかりました。
②天井高さの調整によるマイクロ波反射の抑制検討
庫内天井高さによるマイクロ波反射影響を電磁界シミュレーションで解析、天井が低いと他エリアへの影響が少なくなる傾向が見られ、天井の高さと庫内のマイクロ波反射には相関があるという事がわかりました。
③マイクロ波を放射するアンテナ形状の検討
マイクロ波を放射するアンテナの形状は電磁界シミュレーションと食品加熱実験で検証し、食品のエリア別選択加熱に適したものを選定しました。
④加熱対象の物性変化
冷凍食品の場合、加熱中に解凍されることで、マイクロ波の吸収率が変化しますが、発振周波数を調整することでその影響を少なくすることができ、結果として加熱ムラが少なく、全体の温度も効率的に上げられるようになることがわかりました。
■真空減圧による高品位乾燥
「真空減圧による高品位乾燥」は、減圧とマイクロ波による加熱によって乾燥を促す技術です。水の沸点は標準大気圧下(1気圧)で約100℃ですが、減圧して0.1~0.01気圧程度にすると45℃以下まで下がります。沸点を下げた状態でマイクロ波加熱することで、熱風による乾燥では難しい栄養成分と色素の保持が可能になります。


高品質を保持できる「真空減圧による高品位乾燥」は、減圧するための真空ポンプ、水分を除去するための冷却器、加熱するためのマイクロ波発振器で構成されています。減圧して沸点を下げた状態でマイクロ波を照射、蒸発した水分を冷却器によって水に戻して回収し、乾燥を促進する仕組みです。

減圧環境下での加熱方式による乾燥特性も比較しました。イチゴを丸ごと乾燥させる場合、マイクロ波乾燥では乾燥時間が約70%減の7時間になり、見た目の品位の差も顕著になりました。これはヒーターの熱が表層の浅い部分にしか届かず、内部の乾燥が進まないことが要因となります。

食材ごとに最適な加熱が期待できる「エリア別選択加熱技術」と、内部から加熱して厚みのあるものも高速で乾燥させることができる「真空減圧による高品位乾燥」は、2024年に行われた「SHARP Tech-Day’24 “Innovation Showcase”」に参考出展しました。
■ハイブリッド解凍技術(研究開発本部とSAS事業本部で共同開発中)
電子レンジの加熱モードで冷凍した食品を解凍したとき、内部は冷凍のままなのに端など一部だけ火が通ってしまったという経験はないでしょうか。これはマイクロ波が一部分に集中して吸収される「ランナウェイ現象」によるもの。解凍モードにするとある程度は改善されますが、時間がかかる上、厚みがあるものは解凍ムラができてしまいます。解凍専用機という、より小さい周波数の電磁波を使うことで加熱の均一性を上げる装置もありますが、解凍するまでに時間がかかってしまうという短所があります。この問題を解決するのが、電子レンジと解凍専用機の長所を掛け合わせ、短時間で高品位な解凍を実現できる「ハイブリッド解凍技術」です。

ハイブリッド解凍は2.45GHzでのマイクロ波加熱と40MHzでの高周波誘電加熱の2種類を、状態によって切り替えながら加熱する技術です。
全体が凍結状態である初期は、通常の電子レンジの周波数である2.45GHzで加熱します。凍結状態は奥までマイクロ波が届きやすく、素早く解凍されます。そのまま加熱するとランナウェイ現象が起こり、表面部分が集中的に加熱されてしまうので、ある程度温度が上昇したタイミングで40MHzの高周波誘電加熱に切り替えます。高周波誘電加熱では水よりも氷の方が加熱されやすく、マイクロ波加熱よりも奥まで届きやすい性質を持っているため、均一に解凍されます。
マイクロ波加熱によって時間短縮をしつつ、高周波誘電加熱によって解凍状態の均一化することで、今までよりも短い時間で最適な解凍状態にすることができるのです。

■今後の開発についての抱負
これらの新規技術は、市場にない新しい商品を生み出す原動力となるものです。さまざまな展示会への出展などを通じてマーケティングし、ニーズや市場規模を検討しながら適切な時期に商品化することを目指して開発を推進している、SAS 要素技術開発部 課長の加藤さんに今後の抱負を伺いました。

本発表は質疑応答込みで40分という短時間で説明しなければならず、準備が大変でしたが、マイクロ波応用分野における当社の先行的な取り組みをアピールできるいい機会となりました。今後は早期の実用化に向けて、関係部署と協力して取り組んでいきたいと思います。
■取材を終えて
シャープが国内で初めて電子レンジの量産を開始したのが1962年。発売から63年が経過した今、電子レンジは各家庭に普及し、なくてはならない調理家電となりました。これはシャープの経営信条である「創意は進歩なり、常に工夫と改善を」を実践した成果であると考えます。
今回発表されたマイクロ波応用技術についても、経営信条の通り、様々な創意工夫をされていることがわかりました。地道な努力を続けることが、世界に驚きを与えるような商品を生み出すことにつながるのだと感じました。
これらの技術が実用化され、人々の生活の質の向上に貢献することを期待しています!