【活動レポート】ホームレスサッカー日本代表、2年連続でワールドカップ出場!オスロ大会に帯同しました(後編)

こんにちは、戦略投資部の佐竹です。
前編では、ホームレスサッカー大会に関する概要や、今年新たに取り組んだ「クラウドファンディング」についてご紹介しました。後編では大会中に感じた異国との認識の「差」についてお届けします。どうぞご覧ください。

前編はこちらのページをご覧ください!

【大会中】大会を通じて~リスペクトって何?~

この大会では、優勝を目指す国(勝負志向)と、楽しみを優先する国(エンジョイ志向)が混ざり合うリーグでスタートし、実力差は顕著に現れます。ある国では、刑務所内および釈放後の受刑者のための更生プログラム・雇用支援の一環として出場する国もあります。社会から疎外されがちなホームレスの定義も国によって様々であり、勝ち負けよりも“この大会を通じて、何に挑戦するのか?”、“どうなりたいのか?”を、真摯に考えることも必要になります。

ある試合で、「20対0」というワンサイドゲームの結果で終えた組合せがありました。20点をマークしたのは昨年も優勝し、4度優勝を誇る強豪メキシコ。ストリートチルドレン出身で、サッカースキルの高い若年層中心のメンバーが揃っています。対して0点で終わったのは永世中立国としても有名なスイス。精神疾患や亡命者、薬物依存に苦しむ多様なメンバーを抱えており、サッカーのスキルだけでなく、モチベーションや自己改善(self-improvement)が出来るメンバーを選考基準に選んでいる国です。

実はこの試合の翌日、毎朝各国の監督やコーチが一堂に集う定例ミーティングで、欧州国を中心に「なぜ、この点差をSNSで大々的にリリースしたのか?」と苦言を呈する国が続出しました。彼らの言葉を引用すると「リスペクトに欠けている」と言うのです。

さて、日本人の皆さんはこれをどう思うでしょうか?

「スポーツの世界は真剣勝負なのだから、相手が誰であろうと、どんなときでも全力を出して点を取りに行くべき」であり、それがリスペクトだというのが一般的だと思います。しかし、よくよく話を聞くと、「完封すると、相手のモチベーションに悪影響を与える可能性がある」ということで、欧州圏の国では、試合中に実力が判明した段階で(※つまり「この試合は勝ったな」と明白になった段階で)、敢えて手を抜き、あたかも実力が拮抗しているような素振りをします。また、相手に悟られないように、わざとペナルティを取り、相手チームに得点のチャンスを与えます。これが、欧州圏では暗黙の了解として存在する、彼らなりのリスペクトの示し方だったわけです。

これはメキシコも含めて、非欧州圏の人には分かりづらい感覚でした。手を抜かれている=馬鹿にされていると思う人も多いかと思います。ところが、欧州圏の国々はこのようなリスペクトの示し方を通じて、「相手のモチベーションや取り組み方に配慮する」「実力的に試合に出られない相手選手に、出場のチャンスを与える」「この大会の趣旨を通じて選手は何に挑戦しようとしているのか?」という考え方が徹底していました。

選手の後ろでコーチングを試みる佐竹

日本代表チームも、最初はこの対応に戸惑いました。ホームレスの定義が国によって異なるのと同じように、単に「リスペクト」と言っても、「それは具体的にどんな示し方なのか?」をしっかりと確認し、相互理解に繋げなければ、いつの間にかボタンの掛け違いが起こってしまいます。

大会中、日本代表はアフリカ勢の強靭なフィジカルコンタクトに耐えられず、辛くも勝利で終えた試合でも、怪我人が続出するような事態となり、ベンチスタートする60代の高齢メンバーや、軽度の知的障害と平山病で首にボルトを2本入れている若手メンバーをフル出場で出さざるをえない状況になりました。当人たちも当該状況に迫られて「最悪もう怪我しても構わないから、腹を括って戦う」と言い出す始末で、スタッフ一同、この状況を芳しく思えなかったのが実情です。どんな状況であれ「怪我をしてもよい」という姿勢を容認するわけにはいきません。

日本代表は、次の試合で対戦するオーストリア代表監督に相談。偶然にも昨年度の韓国大会で同じホテルに滞在していたこともあって、お互いの人となりを分かり合っていたので、チーム状況に理解を示していただき、「No body contact」「No sliding tackle」を約束、実力が拮抗するように配慮していただきました。

この試合は6対2でオーストリアが勝利を収めましたが、日本代表チームの選手全員が、「負けたけれども、この試合がこの大会で一番良かった」「みんなが一生懸命怪我のないように取り組んでいただいたことに、リスペクトを感じた」と述べていました。閉会式後の個人賞授与式において、オーストリア代表監督がBest Men’s Coach賞を受賞しました。

日本代表監督と握手を交わすオーストリア代表監督

【大会後】最後に ~もし日本で大会を開催するとしたら?~

前夜祭はノーベル平和賞授与式の会場にもなっているオスロ市庁舎内で実施。オスロ市長も臨席いただきながら、開幕式にはノルウェーの外務大臣もスピーチに駆けつけていただきました。また、大会の運営には、ノルウェーの救世軍(The Salvation Army)が全面的に協力しており、ガイド・食事・洗濯・医療・会場警備等に至るまで、救世軍傘下の現地ボランティアスタッフによる多大な貢献を受け、大会を無事に完遂することが出来ました。

  • ※ 救世軍は、キリスト教プロテスタントの一派、および慈善団体です。

オスロ市庁舎での前夜祭で、市長がスピーチをする様子
開幕式でスピーチをする市長
開幕式でスピーチするノルウェー外務大臣
開幕式でスピーチする救世軍代表

もし、この大会を日本で開催するとしたら、どうすれば実現可能なのか?そのような思いを馳せるに至ります。事実、過去大会では安全上の配慮やトラブルを避けるためにも、軍施設内や大学構内での開催もありました。「For a world without homelessness」を掲げる本大会の趣旨に沿う為には、クローズドな環境ではなく、可能な限り社会に向けてオープンな環境で実施されるべきではなかろうかと思案しつつ、今回のノルウェー・オスロ大会については、どのような人にも開かれた環境下で実施されるケースとしては非常に優良なモデル(※個人的に「オスロ・モデル」と呼称)であると感じています。市民の高い理解度も然ることながら、企業や自治体、政府も巻き込んだ社会全体での実現力が不可欠だと考えつつ、仮にこれらを現代日本でも参照する場合には、非常に高いハードルを乗り越えなければならないと推察します。

相手選手と握手を交わす佐竹

オスロ大会を経た上での目標として、日本代表チームは引き続き、毎年の継続出場を目指します。そのために、中長期的視点に立ったファンドレイジング戦略の立案協力に勤しみつつ、開催国の地域ごとの特徴や、各国がどのような資金調達を経て選手団を派遣しているのか調査を重ねていきたいと思っています。そこで、「資金調達する上で大切なこと」「企業や自治体等が社会的な投資協力の判断に至るプロセス」を整理しつつ、いつの日か、日本開催実現に向けた旗振りが出来ることを願って、引き続き研究を進めていきます。

また、昨年に引き続き2週間近くお休みをいただく形での渡航帯同となり、所属先の戦略投資部の皆さまや関係者の方々に多大なご配慮をいただきました。この場をお借りして感謝申し上げます。

当該活動においては「投資とは何か?」を考える上で大きな社会実践の場となっており、本業との活動に上手くリンクさせながら、仕事に邁進していきます。

どうもありがとうございました。

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