SHARP Blog

進化する電子ペーパー、A2サイズePoster(イーポスター)の技術と利点

2025年7月25日

著者:広報C

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

近年、「電子ペーパー」という言葉を耳にする機会が増えてきました。紙のような薄さと見やすさを持ちながら、一つの端末で複数のコンテンツに切り替えられる、デジタルならではの利便性が特長です。静止画表示に向いており、画像表示を切り替えるときにのみ電力を消費し、表示を維持している間の消費電力は0Wという特性もあり、個人向けの電子書籍端末はもちろん、公共向けやビジネスシーンでのディスプレイとしても注目されています。

A2サイズePoster<EP-CA22>

シャープでは、その電子ペーパー技術を応用し、看板や掲示に使用するサイネージディスプレイePoster(イーポスター)を販売しています。このePosterのA2サイズ試作品を、2023年11月に東京ビッグサイトで開催した「SHARP Tech-Day」で初披露し、注目を集めました。そして2025年6月に製品化、A2サイズePoster<EP-CA22>として発売しました。

A2サイズePoster<EP-CA22>は、E Ink社のパネルモジュール Spectra(TM)6 に、シャープが開発した液晶ディスプレイのカラーマネジメント(色変換)技術と、複合機(コピー機)の画像処理技術を融合しています。この当社独自の画像処理技術によって、より見やすく美しく表示できる色味表現力を実現しており、格段に表現力が向上しています。

開発に携わった技術部門の西坂、村上、高東、早崎に、当社独自の画像処理技術などについて聞きましたので、ご紹介します。

A2サイズePoster<EP-CA22>を中央に
(左から)開発に関わった技術部門の村上、高東、西坂、早崎
ePosterの色表示の原理について説明する西坂

(西坂)ePosterは透明な上部電極と下部電極の間に、画素となるマイクロカップを挟んだ構造となっています。そのマイクロカップの中に帯電されたカラーインクと透明な液体が封入されています。 電極間に電圧をかけると、各カラーインクがマイクロカップの中で移動し、色を表現します。

ePoster<EP-CA22>の構造モデル(イメージ)
図の上側が表示面
(提供:E Ink社)

皆さんご存じの液晶や有機ELは、画素ごとに何万色もの階調表現が可能で、非常に高精細かつ広色域です。
一方ePosterは一つの画素ごとに表示できる色は限られており(Spectra6では白/黒/赤/緑/青/黄の6色)、この色の組み合わせを工夫しながら画像を表現します。画素は小さいので離れて見ると自然な絵に見えますが、近づくと6色のドットの集まりであることが見えて、なるほど!と感じていただけるかもしれません。

各色を表示した状態で電気を止めると、そのままの状態がキープされ、次に画像を変更するまで、消費電力0Wで表示を維持する特殊なカラーインクを使っているのが最大の特長です。

6色の点の配置でさまざまな色を表現(左)
各点では、電圧のかけ方によって、マイクロカップ内の4色インクの配置を変え、

6色を表現(右)(イメージ図)

(西坂)既存の25/13インチePoster<EP-C251/C131>は、E Ink社のGallery(TM)Plusパネルモジュールを採用していました。今回の新製品A2サイズePoster<EP-CA22>には、同社の新製品であるSpectra6のパネルモジュールを採用し、赤色、青色、黄色の鮮やかさが向上しています。さらにシャープ独自の画像処理技術により、見やすく自然な表示を実現しました。この画像処理技術は液晶ディスプレイのカラーマネジメント技術と、複合機の画像処理技術を応用したものです。

カラーマネジメント技術について語る早崎

(早崎)画像データを複合機で印刷したり、液晶ディスプレイに表示したりするとき、それぞれの表示特性に応じた色情報データに調整する必要があります。

例えば、sRGB(国際的な標準色空間)を意図して作られた画像を、液晶ディスプレイで意図通りに表示させるためには、バックライトの明るさ特性と液晶画面の特性に応じた表示信号に変換します。このために色の変換テーブルを作成し、表示に活用するのですが、その色の管理(調整)をカラーマネジメントと言います。

ePosterは、表示できる基本的な色が従来の複合機やディスプレイと異なり、表示特性も色相ごとに大きく異なることから、従来のカラーマネジメント技術に沿って基本的な設計を行った後、ある色から別の色への移り変わりの度合いや、色ごとの鮮やかさの出し方を調整する方式を開発し、最終的には目視評価で微調整しました

例えば、緑の野菜の画像において、通常の設定(画像左)ではくすんだような色合いになってしまうところを、緑系統の色を全体的に鮮やかにするため、黄色っぽくならないよう細かく調整し、全体として自然に感じられる緑色にしました(画像右)。

ePosterに導入した複合機の画像処理技術について語る村上

(村上)シャープの複合機の画像処理技術で培った疑似階調再現技術(誤差拡散処理、組織的ディザ処理)を応用し、豊かな色表現を実現しています。

複合機は、黒、シアン、マゼンタ、イエローという限られた4色のトナーで印刷を実現しています。それぞれの色で数段階の階調を出力可能ではあるのですが、それらの色を組み合わせても、1画素だけでは十分な色を表現できません。そのため、1画素だけでは表現できない中間の色を、周りの複数画素と連携して表現する疑似階調再現技術を用いて自然な色を実現しています。

Spectra6も1画素に対して6色しか表示できない制限があるため、この複合機の疑似階調再現技術を応用して、あたかも多くの階調および色があるかのように画像を表現しています。

(左)調整なしの画像と(右)疑似階調再現技術を用いて調整した画像

調整前後の画像を比べていただけるとわかるかと思いますが、「マゼンタ調整」を行うことで、左側のグレーっぽい色が、赤い色に調整されています。また、和傘の内側の薄い赤の部分が、調整前は階調変化が不自然でしみのような模様に見えていますが、「トーンギャップ改善」を行うことで、ギャップを感じさせない自然な色の変化になっています。


(高東)もう一つ、複合機で培った技術を応用して、表示する画像コンテンツの種類(BMP、JPEG、PNG、PDF)によって、最適な画質の表示モード[色優先/文字優先]を選択できる機能を搭載しています。

モード選択について語る高東

この表示モードを選択し、写真に適した処理と文字に適した処理を使い分けることによって、画像を見やすくすることができます。

例えば、文字だけのポスターを本機で表示したときに、色や濃度によっては、薄くて見にくくなることがあります。その場合は、文字優先を選択することで、薄い文字の輪郭をはっきりと強調し、文字の内側の色の均一性を上げることによって、より見やすくすることが可能です。

「明るさ」を調整するガンマ補正、先ほど村上が説明した「マゼンタ調整」のほか、「シアン調整」「トーンアップ」といった色味調整機能も搭載しました。

従来機では、コンテンツを作成しePosterに表示してみて、もう少し明るくしたいと感じたら、コンテンツ自体を調整していただく必要がありました。本機に搭載した調整機能により、このあと少しの調整が本体側の設定でできます。

(西坂)もともと液晶ディスプレイの明るさや色の調整に携わっており、そのノウハウは蓄積していたのですが、今回初めてePosterの表示品位の向上に取り組んだところ、液晶ディスプレイとはまったく異なるメカニズムで画像を処理しないといけないことがわかり、すぐに行き詰りました。そんなとき、電子ペーパーも紙、紙といえば複合機だと思い、担当部門に相談して開発を前進させることができました。

(村上)相談を受け、複合機の色表現技術をA2サイズePoster<EP-CA22>に導入し、高いレベルで融合するため、お互いに理解することから始め、どんなことができるかを話し合いました。さらに、試作して実際に表示してみたところで、さまざまな問題が見えてきました。その一つが粒状感の発生で、抑えるのに苦労しました。

さきほど説明したとおり、A2サイズePoster<EP-CA22>は疑似階調再現技術により豊かな色を表現しているので、間近で見たときに多少粒状感を感じるのはやむを得ません。しかし色が滑らかに変化している画像の一部の色で、特に粒状感があり、周辺とのギャップを感じることがありました。

誤差拡散処理は、RGBの各色の値が表示色6色の量子化値のいずれの色に近いかを判定して変換するベクトル誤差拡散処理をしているのですが、この処理の判定基準を工夫し、粒状感が比較的少なかった色の粒状感を少し強くしつつ、粒状感が強かった色の粒状感を抑えるように調整しました。もともと粒状感が少なかったところを逆に目立たせてしまわないよう、適切に調整するのに苦労しました。

(左)粒状感(黒髪に白いドット)が発生している状態と(右)調整後の状態

(西坂)ePosterデバイスの絵作りは単純なようで、いざ挑戦すると、色の制御は非常に難しいものでした。不自然な箇所を一つ修正すると、他の箇所に新たな不自然さが現れることがあり、また修正作業を進めると、別の不自然な部分が目立ってくるなど、幾度となく試行錯誤を繰り返しました。

最終的に複合機の技術とディスプレイの技術を融合させることで、当社のオンリーワン画像処理技術となり、自信を持っておすすめできる、より美しい表示が実現できました。

—ありがとうございました。

新製品のA2サイズePoster<EP-CA22>は、当社独自の疑似階調再現技術の導入により表示性能が向上していることが理解いただけると思います。また、ePosterを活用することで、掲示物張り替え作業の省人化や、ディスプレイで消費していた電力の低減につながります。ぜひ、導入をご検討ください。
(広報C)

製品情報

ePoster

ニュースリリース

カラー電子ペーパーディスプレイ『ePoster(イーポスター)』のA2サイズを発売

ePoster導入事例

福間運輸株式会社さま(EP-421)

のぶはらクリニックさま(EP-C251)

SHARP Blog

ePosterでトラック広告業を切り拓く、福間運輸さまのチャレンジ

紙に置き換わる?カラー電子ペーパーディスプレイePoster<EP-C251>はこんな所でこんな使い方をされています

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
Top