「環境に配慮しているけれど、見た目が……」。そんなリサイクル材の常識が、今、変わろうとしています。シャープが新たに挑戦したのは、空気清浄機の「顔」である前面パネルを、あえて再生プラスチックで作り上げること。世界で最も権威のあるデザイン賞の一つである「iFデザインアワード」をも射止めた、その“美しすぎる再生材”の裏側にある物語をご紹介します。

リサイクル材である再生プラスチックは色調のばらつきや黒点が生じやすいため、外観品質が求められる前面パネルへの採用は難しく、本格的にその可能性を検討することもありませんでした。
そうした課題がある中で、シャープは、タイ、インドネシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム、インド、台湾で発売予定の空気清浄機において、その困難を乗り越え、前面パネルに再生プラスチックを採用しました。
家電のリサイクルと聞くと、回収した資源を再利用するだけなので簡単だと思われる方が多いかもしれません。しかしリサイクル材を製品の外観部品として活用するには、単に新品の素材をリサイクル材に置き換えるだけでなく、強度や耐久性、さらには見た目の品質まで考える必要があります。
シャープは、使用済み家電から回収したプラスチックを新しい家電製品の部材としてくり返し再生利用する自己循環型マテリアルリサイクル(CMR:Closed Material Recycle)技術を、関西リサイクルシステムズ株式会社と共同で開発し、2001年度に実用化しました。この技術による再生プラスチック(CMR材)の使用量は、2001~2025年の累計で22,000tにのぼります。
今回、CMR材の適用範囲を海外向け空気清浄機の前面パネルへと広げる新たな挑戦を行いました。これまで内部部品が中心だったCMR材の適用を、製品の「顔」である前面パネルへと広げています。
環境配慮とデザイン性の両立に向けた、新たな挑戦です。
■製品概要

製品名:Plasmacluster air purifier
発売地域:タイ、インドネシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム、インド、台湾
発売時期:2026年9月より順次発売(予定)
■CMRとは?――家電から家電へ、資源を循環させる仕組み
シャープが長年取り組んできたCMRは、使用済み家電から回収したプラスチックを、新しい家電製品の部材としてくり返し再利用する技術です。資源循環と製品品質の両立を目指した、化石資源の使用やCO₂排出の抑制にもつながる取り組みでもあります。

使用済み家電から回収した部材は、破砕・洗浄・加工・評価/分析などの工程を経て、再び製品の部材として生まれ変わります。このような一連のプロセスを通じて、耐久消費財である家電に再利用できる品質を確保しています。



■“見える部品”には難しかった――リサイクル材が抱える課題
リサイクル材は、使用済み製品から回収したプラスチックを原料とするため、生産ロットによる色調のばらつきや、製造過程で混入しうる黒点など、外観品質面の課題があります。

色調のばらつきや黒点が見られ、製品外観としては課題となる
そのため従来は、電源ボックスや内部カバーなど、外観として目立ちにくい内部部品への採用が中心でした。つまり、「見える部分」に使うことは、技術的にもデザイン的にもハードルが高い領域でした。
ではなぜ今回、空気清浄機の“前面パネル”に挑むのか。ここが今回の取り組みの核になります。
■素材をどう活かすか――デザインとして成立させる考え方
今回の開発では、CMR材を前面パネルに採用するとともに、デザイン性を高める加飾表現を組み合わせています。
リサイクル材特有の色調のばらつきや黒点を隠すのではなく、素材の持つ特徴を活かしながらデザインとして成立させる。今回の取り組みの大きなポイントとなっています。

■技術の土台――性能と再リサイクル性をどう確保したか
今回の取り組みでは、デザイン性とCMR材の性能とコンセプトを両立させることが最重要課題でした。
具体的には、今回採用されている高いデザイン性の石目調の模様は、CMR材と意匠性を付与する添加剤を混合・溶融し、射出成形時に金型の中を流れる過程で生まれます。素材ごとの流れ方の違いを利用して模様を作り出していることが特徴です。射出成形では狙い通りの模様を出すために高度な技術が求められますが、技術部門が培ってきたノウハウを活用することで安定した模様を再現できる条件を確立しています。

一方で、意匠性を付与する添加剤は、CMR材の性能やくり返しリサイクル性に影響を及ぼす可能性があります。このため、CMR材の組成や流動性、色調などの特性を考慮しながら、添加剤の選定と処方設計を行い、ラボの小型試験機を用いて性能を確認してきました。
さらに、耐久消費財として必要な強度や耐久性を確保することに加え、使用後もくり返しリサイクルできることを前提とした材料開発を行いました。
例えば、リサイクル材は回収原料によって流れやすさや色合いが異なるため、添加剤を配合することで成形後の見た目や性能にどのような影響を及ぼすのか、一つひとつ確認する必要があります。こうした検証を積み重ねることで、デザイン性と性能の両立を実現できる最適な材料条件を見出してきました。
また、加速劣化試験によって使用済み製品相当の前面パネルを実験的に作製し、その再リサイクル性を検証することで、耐久消費財に求められる性能を確保しながら、くり返しリサイクルが可能な処方技術を確立しています。

すべて耐久消費財の材料として再利用可能
技術担当者コメント

見た目の表現だけでなく、耐久性や物性、さらに再リサイクル性までを含めて成立させる必要がありました。材料の検討と評価を重ねてきたことが、今回の前面パネル採用の土台になっています。
同じリサイクル材でも、流れやすさや色の出方は素材ごとに違います。その違いが見た目や強度にどう影響するのかを一つひとつ確認しながら、製品として成立する条件を探っていきました。
リサイクル材は「一度使えればよい」というものではありません。今回は、使い終えたあとにもう一度リサイクルできることまで含めて、材料設計と評価を行っています。

■石目調のデザイン――実製品で採用された表現

今回の取り組みの特長は、素材のばらつきを“制約”ではなく“個性”として捉え直した点にあります。リサイクル材ならではの偶発的な模様を活かし、単なる環境配慮にとどまらない、製品デザイン価値を実現しました。開発方針として「色調ばらつき」や「黒点」を付加価値へ転換することを掲げ、リサイクル材ならではの表情を意匠として活かすことを目指しました。前面パネルに採用することで、環境配慮を視覚的に伝えられるデザインとしています。
デザイン担当者コメント
素材のばらつきを個性として捉え、空間になじみながらも個性を感じられるデザインを目指しました。
リサイクル材の欠点を隠すのではなく、素材の持つ自然な表情として捉え直しました。射出成形の過程で生まれる自然な表情は、一台として同じものがありません。それは、リサイクルというプロセスを経たからこそ生まれた、新しい価値だと考えています。

サステナビリティの潮流を改めて見つめ直したとき、「使ったあとに、もう一度同じように生まれ変われるかどうか」が本当のエコにつながると感じました。
これまで外観部品で再リサイクル可能なリサイクル材はほとんどなく、加飾を施したリサイクル材を、もう一度水平リサイクルできる形で量産化した事例は確認できていませんでした。だからこそ、リサイクル材に意匠性を加えた上で、もう一度同じ品質で循環できるデザインを目指したい。その考えが、今回の取り組みの出発点です。
今回のデザインは、私たちデザインチームだけでなく、素材を支える技術部門や生産現場、多くの関係者の知見が積み重なって実現したものです。リサイクル材の特性を扱う難しさを乗り越えていただけたからこそ、「再生材を魅せる」というコンセプトを製品として形にできました。


■国際的評価へ――「2026年 iFデザインアワード」受賞
本製品は、前面パネル全面にCMR材を採用した点に加え、石目調の加飾によるデザイン性と環境配慮の両立が評価され、「2026年 iFデザインアワード」を受賞しました。 同賞は1953年から続く、世界的に権威のあるデザイン賞の一つであり、機能性やサステナビリティなどを含めた総合的な評価が行われています。

iF Design – SHARP Plasmacluster air purifier
今回の取り組みは、単にリサイクル材を使用するだけでなく、「くり返しリサイクルできることまで見据えた設計」と「外観デザインの向上」を両立した点に特徴があります。そして、今回の製品化で得られた知見は、今後のCMR材のさらなる活用にもつながっていきます。
また、今後の製品に向けて、CMR材ならではの表情を活かした新たな加飾表現の検討も進めています。素材の特性を安定して引き出すためには、材料や成形条件を細かく整える必要があり、現在も技術検討を続けています。
シャープは今後、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、テレビといった家電リサイクル法の対象となる主要な家電製品にとどまらず、すべての製品へCMRの展開を目指しています。今回のように、「見えにくい部品」から「見える部品」へと適用を広げることで、資源循環と製品価値を両立したものづくりを進めていきます。
リサイクル材の活用を「環境のため」だけで終わらせず、「使いたくなるデザイン」へ。そんな次の循環に向けて、開発は続いていきます。シャープはこれからも、環境性能とデザイン性を両立した新しいものづくりを通じて、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
<関連サイト>
■リリース:『2026年 iFデザインアワード』を5件が受賞
■シャープBlog:
■シャープのサステナビリティ
プラスチックの自己循環型マテリアルリサイクル技術 ~家電から家電へ。何度もくり返し再生利用~
・プラスチックの自己循環型マテリアルリサイクル技術とは
・解体・回収技術の向上で、廃プラスチックの再資源化を推進
・異物除去や添加剤処方の見極め、品質管理への取り組み
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