テレビとAIで介護現場を支える。開発者が語る「介護向けAIトレーナー」の挑戦(1/2)
2026年10月30日

6月の記事(テレビと会話する時代へ。新サービス「AQUOS AI」で広がる新しい体験とは?)で、テレビの大画面でAIキャラクターとの会話が楽しめる新サービス「AQUOS AI」をご紹介しました。シャープはテレビ自体の進化はもちろん、「AQUOS AI」のようなAIを用いたテレビの新しい価値を実現するため、日々開発を続けています。
本ブログでは、テレビとAIを用いたソリューションの一つである「介護向けAIトレーナー」について、2回に分けてご紹介します。「介護向けAIトレーナー」は、神奈川県の「令和7年度(2025年度)ロボット開発支援事業」に選定され、介護施設での実証を通じて早期の実用化を目指して開発を進めています。

今回は開発担当の岳野(チームリーダー)、渡邊、石本に、「介護向けAIトレーナー」の概要や開発のきっかけと目的、介護という新ジャンルへの挑戦などについて話を聞きました。
*「介護向けAIトレーナー」の概要は「AIとテレビを活用した「介護向けAIトレーナー」を開発」(ニュースリリース)をご参照ください。

― 「介護向けAIトレーナー」とは?
(石本)介護施設では、高齢者(利用者)の自立した生活の支援や身体機能の維持・向上を目的に、日々機能訓練が実施されていますが、計画策定から訓練、記録、書類作成まで、多岐にわたる業務が発生し、さらに利用者一人ひとりに合わせた訓練をおこなう必要があることから、介護スタッフの大きな負担となっています。
「介護向けAIトレーナー」は、こうした課題に着目し、AIとテレビを活用することで、介護施設における一連の機能訓練の業務を支援し、質の維持・向上と業務効率化を実現するもので、利用者、介護スタッフ両方の利便性を高めるソリューションです。

実は、「介護向けAIトレーナー」は、以前本ブログでも紹介した、大画面テレビとカメラを活用し、姿勢分析をもとにリビングで気軽にヘルスケア相談とエクササイズができる「AIヘルスケアトレーナー」を介護向けサービスへと進化させたもので、「AIヘルスケアトレーナー」同様、テレビに表示されるAIキャラクターとの人に寄り添う自然な会話をしながら、Webカメラを活用して姿勢分析を行います。
― 具体的にはどんなことができるのですか?
(渡邊)
Check(評価):まず、AIが利用者(高齢者)との会話内容や、起立、歩行などの動作や姿勢を分析、アセスメントを実施します。
↓
Action(改善):アセスメントした内容を確認するとともに介護Webソフトへ反映します。
↓
Plan(計画):アセスメント結果の分析と利用者情報をもとに、目標設定を行い、どんな運動をするのか、その頻度など、具体的な計画を策定します。
↓
Do(実行):介護スタッフは、その計画に従い、理学療法士が監修した運動や身体を動かすゲームなどの訓練を促し、利用者は、AIキャラクターのかけ声や動きに合わせ、楽しみながら機能訓練を行います。
↓
Check(評価):利用者および施設等の現状や取り組みに生じた変化を確認するアセスメントを実施します。
↓
(この後Action、以後PDCAサイクルで)
このように、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のPDCAサイクルで回すことで、介護現場を効率的に支援できると考え、開発を行いました。

さらに、本ソリューションは、公益社団法人国民健康保険中央会の科学的介護情報システム「LIFE」※1に連携しており、個別機能訓練加算※2の申請に必要な書類を作成するなど、作業効率も図っています。
※1 介護施設が利用者の状態やサービスの内容などのデータを公益社団法人国民健康保険中央会へ提出し、分析結果のフィードバックを受けることで、サービスの向上を図る仕組み。
※2 利用者ごとに計画された個別機能訓練を、所定の体制・要件に基づいて実施した場合に算定できる介護報酬加算。
― 「AIヘルスケアトレーナー」から進化したところや違いとは?
(渡邊)「AIヘルスケアトレーナー」は、身体情報をもとに、運動の目標を設定することに注力していましたが、「介護向けAIトレーナー」は、身体情報に加え、既往歴など非常に幅広い利用者情報を学習対象とし、すぐに運動計画を立てるのではなく、長期目標、短期目標、それを実現する運動内容と順を追って立案するようにしています。また継続して楽しく訓練してもらえるように、身体を動かすゲーム開発にも力を入れました。ここまで配慮しているのが、本ソリューションの特長だと考えています。
さらに、訓練の記録や評価、進捗に合わせた計画の見直しまで効率的に実施できるよう介護webソフトを新たに構築するなど、大幅に進化しています。


― 家電メーカーの社員には介護施設でのアセスメントに関する知見はないと思いますが、そこはどうカバーしているのですか?
(石本)アセスメントで行う姿勢分析は、カメラで動作や姿勢を撮影し、姿勢が曲がっているとか、手がまっすぐ上がらないとか、その状況を点数化した上でクラウドにある介護webソフトにデータを上げ、AIを活用して分析しています。おっしゃる通り、我々は医学的な知見がありませんので、理学療法士が多数在籍されている株式会社ORPHEと連携し、監修していただいています。理学療法士に画像を見せて、この画像の状態だったらこういう風に評価するといった、細かいすり合わせなどを重ねて精度の高いアセスメントができるようになりました。「AIヘルスケアトレーナー」の開発時にも株式会社ORPHEによる監修を受けていました。
― 「介護向けAIトレーナー」の目指すところは?
(渡邊)「介護向けAIトレーナー」は利用者、介護スタッフ両方を支援するソリューションですが、メインターゲットは介護スタッフで、その生産性向上や負担軽減が一番の目的です。普段の業務やそれに伴う悩み、負担になっていることをヒアリングしながら、課題を解決するソリューションを目指しました。もちろん、利用者ができるだけ長く自立した生活を送り、日常生活を無理なく続けられるよう支援することも目的の一つです。利用者の家族や介護保険を支える方など、社会全体でメリットを享受できるサービスを目指しています。
― 開発のきっかけを教えてください。
(岳野)私たちは2023年から、「リビングにパーソナルトレーナーがいる世界」を実現したいという思いで、「AIヘルスケアトレーナー」の開発を進めてきました。当社の技術展示イベント「SHARP Tech-Day」への出展などを通じて、実用化に向けたさまざまな可能性を探る中、2025年4月、厚生労働省と経済産業省が進める「ロボット事業の介護利用における重点分野」に「機能訓練支援」が追加されたことを知りました。その内容を見たときに、「運動中の姿勢をリアルタイムでチェックする」という当社技術の特長が生かせるのではないかと直感しました。その後、「AIヘルスケアトレーナー」の技術が、介護・医療分野におけるテクノロジー導入を目的に神奈川県が実施する「令和7年度(2025年度)ロボット開発支援事業」に採択され、本格的に介護向けに特化した開発を進めることになりました。

「介護向けAIトレーナー」を説明する開発担当 岳野 (右:開発担当 石本)
― そこでの苦労を含め、もう少し詳しく教えてもらえますか?
(岳野)「SHARP Tech-Day」では多くの来場者から期待の声をいただいたものの、なかなか実用化には結び付かず、この開発を続けるべきか悩んだ時期がありました。開発には費用もかかるため、最後にもう一度可能性を探ろうと、メンバー全員で市場調査を行い、関係しそうなところへ片っ端から電話をかけました。「AIヘルスケアトレーナー」そのものではなくても、保有する要素技術を活用できる領域があるのではないかと模索する中で、有力な候補として浮上したのが介護分野でした。自治体の支援制度を活用できる可能性があることに加え、「この技術は介護現場でも役立つのではないか」というアドバイスもいただきました。
その後、神奈川県のロボット開発支援事業に応募し、採択を受けたことで、介護向けソリューションとして再スタートを切ることになりました。
もちろん選定してもらうことがゴールではなく、ここからが本番です。介護分野の専門家ではありませんので、施設の種類や役割、現場で働く方々の業務内容など、まずは基礎知識を学ぶところから始めました。また、補助金事業への対応も初めてだったため、開発以外にも多くの書類作成や進捗管理が求められました。
さらに、実際の現場で使われなければ良し悪しは分かりません。試作品を何度も介護施設へ持ち込み、利用者や職員の方々の声を聞きながら改良を重ねました。神奈川県に紹介された専門家の方々からは厳しいご指摘をいただくこともあり、不安になる場面もありましたが、その都度軌道修正しながら開発を進めました。
限られた期間の中で試行錯誤を重ね、最終的には期限の今年(2026年)2月までに実際の介護施設でご利用いただけるレベルまで完成度を高めることができました。
<次回に続く>
今回は、テレビとAIを用いた開発中のソリューション「介護向けAIトレーナー」の概要や特長を説明するとともに、介護という未知の分野へ挑戦する姿について紹介しました。
次回は、神奈川県のロボット開発支援事業担当者の話を中心に、パートナー企業のORPHE社との関わりや、今後の展開などを紹介します。お楽しみに!
(広報H)
<関連サイト>
■ニュースリリース:
・AIとテレビを活用した「介護向けAIトレーナー」の実証を介護施設で実施
・AIとテレビを活用した「介護向けAIトレーナー」を開発
■SHARP Blog:
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